福岡市南区で藤井勉の油絵を買取りました!

◇──五月の骨董品出張買取──
おかしい。おかしいにもほどがある。
こちとらカレンダーによれば五月の中旬、木々も芽吹き、燕は巣をこしらえ、ついでに人間も心機一転、新しいスーツでも着て鼻歌まじりに通勤しそうな季節だ。
なのに、である。
外気温、朝のうちは一桁台。昼になってもジャケットが手放せない。歳をとると関節が敏感になるのだ。膝が天気予報より正確で、腰はGPSより早く季節のズレを教えてくれる。「今日は春ではない」と骨が告げる。だから私は、ひざ掛けにくるまって茶をすする。
そんな寒さに震える午前十時、ひときわ甲高い携帯の着信音が部屋を裂いた。
電話の主は、福岡市南区の奥様。曰く、「亡き父が遺したガラス作品やら版画やら、洋食器、着物、銀器、あらまあ色々ありまして…どうにもこうにも処分に困ってまして…」
――なるほど、なるほど、そう来ましたか。
そう言われちゃあ黙っていられない。そういうの、私の三度の飯の次くらいに好きなんです。いや、飯より好きかもしれない。
私は腰の湯たんぽを蹴飛ばし、そそくさと出動準備。ジャケットのポケットにはルーペと手袋、胸には骨董の神を宿し、車のエンジンを回す。
愛車は平成初期のくたびれたバン。ボンネットのどこかから小鳥の鳴き声のような異音がするが、それもまた旅情というもの。
目的地は、福岡市南区の小高い住宅街。ナビが案内するまでもなく、私は土地勘だけで突き進む。なぜなら、この街には「遺品と決算と片付けの悩み」が詰まっているからだ。そんな人間の悲喜交々が集まる場所、私はすでに何度も踏み込んでいる。
ピンポーンと鳴らせば、品のいい中年のご婦人がにこやかに迎えてくれた。
「まあまあ、ようこそ。狭いとこですが、どうぞどうぞ」
謙遜の裏には本音がある。つまり、物が多すぎて本当に狭いのだ。廊下はすでに道ではなく、物置と化していた。西洋と東洋の美術品が出会ったらこうなるのかという混沌ぶり。ロイヤルコペンハーゲンのカップの隣に、九谷焼の壺。その下にミッフィーの皿。もはやカオス。骨董屋にとっては宝の山、とはいえ、地雷原でもある。
まず目についたのは、黒ずんだ銀製のアンティークな
「ええ、父は昔、商社勤めでヨーロッパを…」
きたきた、思い出話が骨董の価値を数倍にする瞬間だ。私は一通り頷きながら、そっと毛布のように包み込む。
その後も出るわ出るわ、茶器に掛軸、妙に重たいクリスタルの花瓶に、ビロードの箱に入ったペンダント。中には「人間国宝」銘のガラス作品まで。ほう、と唸る。
一通りの査定を終えた頃、ふと視線の先にあった一枚の肖像画が、こちらを見ていることに気がついた。
柔らかい表情の女性。どこか寂しげで、けれど温かい微笑み。その視線がこちらの動きをじっと追っている。
近づいてみる。額縁の裏に貼られたラベル、そしてサイン。
「――藤井勉?」
思わず声が漏れる。
これは、お宝である。
藤井勉といえば、写実の魔術師。見る者の心をえぐるような繊細な描写、温もりのある構図、そして圧倒的な存在感。まさかこの住宅街の一室で、藤井勉の作品と出会うとは。
私は震えた。寒さではない。これは、骨董屋の血が騒ぐ興奮。その瞬間、心の中で太鼓が鳴った。ドンドコドン。
よくぞ呼んでくれました、奥様。私は、あんたの遺品の中から宝を見つけるために生まれてきた。
目に見えぬ誰かに手を合わせ、私は心の中で唱えた。「神様、仏様、藤井勉様――今日もありがたく、お宝、拾わせていただきました」

「これも、お父様が…?」
「ええ、昔、個展で購入したそうです。私は詳しくなくて…」
詳しくなくて結構。それが私の仕事だ。そしてきちんと現在の相場をお知らせして買取成立。傍らで奥様は高額査定にビックリしている様子。
帰り道。助手席には例の絵と、銀器と、あれやこれやの骨董の遺品たち。車内はもはや小さな美術館である。
エンジンの軋み音が、なんだかバロック音楽のように聞こえるのは気のせいか。
さて、次はどんなお宅が、どんな骨董品を用意して待っているのだろう。寒さはまだ残るが、心の中は春のようにほっこりと温かい。
――骨董屋、まだまだ、風に吹かれて旅の途中である。
この絵画については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。
買取品の詳細

◇この藤井勉作品は「春待つ岬」という題名です。娘さんの成長を描いたリアリズムの画家ですがやはり細やかな表情やまなざし細部にいたるまでのリアルな描写、そして何よりも愛情をすごく感じられる作品だと思います。一つ一つの筆使いや息遣いまでも手に取って感じる作品です。サイズは10号でとても存在感のある作品でした。 ありがとうございました。
買取査定額
◇藤井勉作品の買取査定額もしくは評価額ですが状態や鑑定書の有無、サイズなどで査定致します。ご自宅に油絵や絵画が御座いましたら一度拝見させてください。もちろん状態や時代、作者、作品でもお値段は変わりますのでご了承ください。
■過去の作品買取例
「つめくさの宵」30号 700,000円
「少女」油彩8号 600,000円
「雲」 油彩10号 300,000円
「少女 」20号 油彩250,000円 他多数
藤井勉とは?

◇藤井勉(ふじい・つとむ)氏は、写実表現において国内外で高い評価を受けてきた洋画家です。特に、長年にわたり実の娘をモデルに描き続けたことで知られ、絵画と家族、そして生命そのものに向き合った独自の表現は、多くの鑑賞者に深い感銘を与えてきました。静けさと緊張感を併せ持つ彼の作品は、単なる写実を超えた「心象風景」とも言える世界を創り出しています。
本稿では、藤井勉の生い立ちから画業、受賞歴、代表作品、作風の特徴などについて、特に「娘を描く画家」としての一面に注目しながらご紹介いたします。
◆藤井勉氏は1948年、青森県十和田市に生まれました。寒冷な風土と豊かな自然に囲まれた東北の地で育ったことは、彼の美意識に大きな影響を与えたといわれています。少年時代から絵に強い関心を持ち、地元の風景や人々の姿を丹念にスケッチしていたといいます。
高校卒業後は上京し、1967年に武蔵野美術大学に入学します。しかし、当時の芸術教育になじめず中退。以降は独学で絵を描き続け、作品を公募展などに出品することで少しずつ画家としての道を切り拓いていきました。
特筆すべきは、アカデミックな教育機関の枠にとらわれず、独力で写実表現を極めていったその姿勢です。藤井氏にとって、「描く」という行為は技術ではなく「観ること」と「感じること」への真摯な問いかけだったのです。
◆藤井勉氏の画業の中でも、最も知られているのが「娘を描いた作品群」です。1970年代後半から娘をモデルにしはじめ、その後30年以上にわたり、成長に応じた姿を一貫して描き続けてきました。彼の代表的な連作《無言歌(リート)》には、少女から大人へと移りゆく娘の姿が繊細に記録されており、それは同時に画家自身の心の軌跡でもあります。
娘を描くことは、単なる愛情の表現にとどまりません。モデルである娘は、絵の中であくまで「無言の存在」として描かれています。目線を逸らし、感情を抑え、見る者に語りかけることのない佇まいは、むしろ「沈黙の中の語り」を思わせます。父としての私情を挟まず、ひとりの存在として、娘という「人間の原型」を描き続けてきたのです。
その制作態度はきわめて厳格で、藤井氏は作品の中に「描き手の感傷」が入り込むことを嫌いました。だからこそ彼の描く娘像は、鑑賞者の内面と深く共鳴し、「誰にとっての娘であるか」を超えた普遍的な存在感を放っているのです。
◆藤井勉氏は、1970年代から美術公募展への出品を開始し、1975年には日本最大の公募展である「日展」に初入選を果たしました。以降も日展を中心に活動し、1982年には日展特選を受賞するなど、順調に実績を重ねていきます。
その後、日展審査員や会員を務めるなど、現代洋画壇の中で確固たる地位を築きました。とりわけ1980〜90年代には、写実絵画の第一人者として高い評価を受け、全国の美術館や百貨店ギャラリーでの個展も数多く開催されました。
しかし、藤井氏は公募展の評価や名誉に執着せず、むしろ作品を通じた「個と個の対話」に重きを置いていました。2000年代以降は、公募展から離れ、個展や回顧展を中心に活動を展開。純粋に作品と向き合う場を大切にする姿勢は、今日まで変わっていません。
■ 代表作品とシリーズ
藤井勉氏の代表作としては、以下のようなシリーズや個別作品が挙げられます。
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《無言歌》シリーズ
娘をモデルにした静謐な人物像の連作です。シリーズ名はシューベルトの「無言歌」に由来しており、音のない抒情、沈黙の中の感情をテーマとしています。人物は背景を排した構図の中で、淡い光に照らされ、まるで時間が止まっているかのような印象を与えます。 -
《花の肖像》シリーズ
藤井氏は花を、単なる植物ではなく「人格ある存在」として描いています。バラ、椿、百合などが画面中央に据えられ、背景を暗く落とすことで、まるでポートレートのような趣が生まれます。花の一輪一輪が、静かにその内面を語っているかのようです。 -
《風景》シリーズ
東北の風景を主題とした作品群で、冬の湖面、雪に覆われた林道などが多く描かれています。どの作品にも人影はなく、無音の空間が広がります。これは藤井氏にとっての「心象風景」であり、孤独と祈りを感じさせる詩的な作品群です。
◆藤井勉氏の作品に通底する最大の特徴は、「沈黙」と「静謐」です。派手な色彩や大胆な構図を避け、徹底して抑制されたトーンの中に、圧倒的な存在感を宿らせています。
色彩は限定的で、黒・灰・白・赤褐色などの重厚で静かなパレットが主です。人物や花は極めて精緻に描かれており、皮膚の透明感や花びらの柔らかさなど、質感への執着は驚くほどです。
また、彼の描く人物には表情がほとんどありません。目線は逸らされ、口元も閉じられており、まるで感情の器としての存在であるかのようです。これは鑑賞者が自身の感情を投影できる余白であり、見る者の「内なる沈黙」に向き合う装置ともなっています。
現在も藤井勉氏は精力的に創作活動を続けており、個展の開催や画集の出版なども定期的に行っています。また、娘を描いた長年の連作を一堂に集めた回顧展なども各地で開催され、世代を超えてその芸術が再評価されています。
SNSや動画メディアを通じて作品が紹介される機会も増え、若い世代の鑑賞者や美術愛好家にもファンが広がっています。写実というジャンルにおいて、精神性や時間性をここまで深く表現できる画家は希少であり、藤井勉氏はまさにその第一人者と言えるでしょう。
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■参考サイト
1. ホキ美術館(千葉県千葉市)
日本初の写実絵画専門美術館であり、藤井勉氏の作品を多数所蔵しています。特に、彼の代表作である《無言歌》シリーズを含む人物画が展示されており、写実表現の深さを堪能できます。
2. 知足美術館(秋田県大仙市)
藤井勉氏の故郷である秋田県に位置し、彼の作品を中心に展示しています。特に、娘をモデルにした作品群が特徴的で、彼の画業を深く理解することができます。
■その他の買取品目
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