福岡市西区で中村半兵衛作・古錫の茶托(茶道具)を買取りました!

「古錫茶托と桐箱地獄」
◇骨董品買取の福岡玄燈舎です。福岡の六月。世間では「そろそろ梅雨入りかねぇ」なんて気象予報士がテレビでウキウキ顔?で言ってましたが、この日は違った。空は抜けるような青。雲はどこぞへ逃げ、風は南から頬を撫でるように吹いてきて、まるで昭和の映画に出てくるスカーフを巻いたお姉さんが「行ってきます」と振り向いた瞬間のような爽やかさ。……ええ、つまり、とても良い天気だったのです。
そんな薫風(かおるかぜ)に背中を押されるようにして、私と家内は福岡市西区のあるご自宅へ向かいました。「煎茶道具に掛軸、鍋島の壺や皿がたくさんある」と電話口でおっしゃったのは、声に品のあるご年配の奥様。これは期待できる、と私の鼻の穴も自然と広がるってもんです。
カーナビの案内で着いたのは、築年数の割に妙に風格のあるお宅。門から玄関までの飛び石が、まるで茶会へ向かう客人の足音を聞いて育ってきたような佇まいで、靴を脱ぐのも恐縮してしまうような雰囲気がありました。
さて、玄関を開けると、そこには古桐箱の山、山、山。これだけの桐箱、昔なら小学校の工作で確実にカブトムシの家にされていたでしょうが、今どきの子はこれを見ても「ゴミの日いつですか?」なんて言いかねません。だが、われわれ骨董屋にとっては宝の山。夢とロマンとホコリの箱詰めです。
一歩足を踏み入れると、そこはまるで煎茶道具の見本市。茶托に茶碗、建水、急須、そして時おり「何に使うんだこれは」と首をひねる謎の道具も混じっている。さらに壁には掛軸、棚には鍋島焼の大皿や壺が居並び、どこかの旧家をそのまま移築したような様相。
「これね、おじいちゃんが昔から集めてたんですの」
と奥様。なるほど、家一軒分まるごと茶人の夢。いや茶人どころか煎茶の博物館が開けそうなスケール感で、こちらも身が引き締まります。
さあ、ここからが私と家内の出番。桐箱を開けるたびに「おぉっ」と声を漏らし、茶托を手に取っては「これはなかなか……」と眉をひそめる。もちろん演技ではありません。目の前の品々がそれだけの価値を持っていたのです。私の骨董レーダーがピーピー鳴りっぱなし。家内も黙々と桐箱を開けては写真を撮り、メモを取り、途中から「桐箱地獄……」とつぶやきながらの作業。
途中、奥の部屋から猫がひょっこり顔を出しました。三毛の女の子。茶托を見つめる私の隣で、彼女は鍋島焼の皿の上にちょこんと座ってしまい、私の心臓がひと跳ね。お願いだから、それだけはやめてほしい。

さて、査定作業はトータル4時間。途中お茶も出していただきましたが、うっかり煎茶の香りに酔いそうになりつつ、最後の目玉が登場。それが「中村半兵衛」の古錫の茶托。これがまた、ただの古錫じゃない。銀鼠色にほんのり赤みが差す、見るからに年代を重ねた逸品。それがひと組、ふた組、み……っと、なんと五組以上も。
「これ、誰も使わないから邪魔だと思ってたの」
と奥様。
なんとまあ、使わないどころか、これだけで茶道具界のオールスターゲームが開けそうな布陣。おそらく明治中期の作で、保存状態も良く、桐箱もオリジナルと来ている。これは高額査定待ったなし。
いよいよ金額をお伝えすると、奥様は「あらまあ!」と声を上げ、隣で猫が「ニャッ」と呼応する。その瞬間、私は確信しました。「これは買取成立の兆し」と。「お願いします。全部、持ってってください」
というわけで、桐箱地獄から始まり、中村半兵衛で花開いた今回の査定、最後は奥様の笑顔とともに無事にお引き取り。帰りの車中、家内は「今日は本当に良いお道具ばかりだったね」とポツリ。私はハンドルを握りながら「うん」とだけ返しましたが、内心では万歳三唱してました。
骨董との出会いは一期一会。今日もまた、素敵なご縁に恵まれました。空の青さと中村半兵衛の鈍い銀の光、そして桐箱の山。それらは、きっと今夜の夢にも出てくることでしょう。この古錫の茶托については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。
買取品の詳細

◇この「中村半兵衛の茶托」は時代の割には変形や欠けもなく花弁の形の上等な茶托でした。5枚セットで共箱付のこの茶托は上にのせる煎茶器を際立たせるような古錫の茶托でした。ありがとうございました。
買取査定額
◆茶托の買取査定額もしくは評価額ですがまず第一に作家と作風、素材。製作年代、次に状態、付属品の有無などでより高価買取できます。なお、今回買取した古錫の茶托は「中村半兵衛」という人気作家で状態もよく、しかも付属品や元箱なども揃っているということで高価買取させていただきました。尚、ご自宅や倉庫に茶托や煎茶道具がありましたら是非、骨董品買取の福岡玄燈舎にお声掛け下さい。宜しくお願い致します。

■過去の作品買取例

中村堂造 中村半兵衛 純錫 漢詩彫刻 箱付 200,000円
錫半中村半兵衛造 純錫製 宝袋形 茶心壷 50,000円
中村半兵衛 純錫 茶托箱付き 30,000円
千筋形 錫茶入 中村半兵衛 共箱付 純錫 10,000円 他多数
◇中村半兵衛とは…

京都・室町通。千年の都の中でも、古くから工芸と商いの息づくこの地に、錫細工を家業とする名門「錫半(すずはん)」がある。屋号に「半」の字を冠する初代中村半兵衛(なかむら はんべえ)は、江戸時代後期に生まれ、京錫器の礎を築いた名工として知られている。
■ 生い立ちと創業
中村半兵衛は文化年間(1804~1818年)頃、京都の町家に生まれた。家系は元々、鋳物師(いもじ)として銅や鉄を扱っていたが、時勢の変化に伴い、より細やかで美術的な要素の強い錫器(すずき)製作に転じたとされる。
当時の錫器は、主に薬壺や茶器、仏具などに用いられており、上層階級や寺院、茶人の間で重宝されていた。しかし、半兵衛はそうした実用品に芸術性と機能美を付加し、「用の美」を体現する新たな錫器を提案。文政年間(1818〜1830年)には、京都室町に工房兼店舗を構え、「錫半」と号した。
■ 作風と技術
中村半兵衛の錫器は、見た目の華美さを抑えつつも、精緻な彫金や鏨(たがね)彫りを施すことで、静謐な気品を備えている。その表面は微かに光をたたえ、手触りはしっとりと柔らかい。「京のわび・さび」を体現する器として、数寄者たちの間で評判となった。
とりわけ評価が高かったのが、茶道具としての茶壺や建水、酒器(ぐい呑・徳利)である。錫は水や酒の味をまろやかにする性質があり、茶人や酒徒から高い支持を得た。
さらに、彼は「象嵌(ぞうがん)」や「打ち出し」の技法にも長けており、錫に金・銀・銅などを嵌め込んだ意匠作品も残している。
■ 代表作品と所蔵
現在、初代中村半兵衛作と伝わる作品の多くは、京都の樂美術館や、東京の根津美術館などで散見される。代表作の一つに、「白錫梅花文酒器」があり、梅の花を陰刻であしらい、まるで雪の降り積もる早春の情景を思わせる名品として知られる。
また、幕末の頃に製作されたとされる「錫製茶壺・銘『松風』」は、茶道三千家の一つである表千家に伝わる道具として、今も茶会に使用されることがある。
■ 受賞歴と顕彰
半兵衛自身は、明治以前の人物であるため、現在のような公的な美術展や褒章は存在しなかったが、明治維新後も「錫半」の名は継承され、明治・大正・昭和期にかけて後継者たちが各種博覧会や帝展などで入賞・受賞している。
特に、五代目・中村半兵衛は昭和期に活躍し、1958年のブリュッセル万国博覧会にて金賞を受賞。さらに、1990年には京都府伝統産業優秀技術者(京の名工)に選定されるなど、錫器職人の系譜として高い評価を受け続けている。
■ 弟子と後継者たち
初代半兵衛の元には、京・堺・大坂などから多くの弟子が集まった。中でも有名なのが、後に堺で独立した山中宗一郎で、彼は堺錫器の祖と呼ばれる。錫半の影響を受けた宗一郎の作風は、より素朴で力強いものとなり、実用美を追求した作品群は、現在の堺工芸館に所蔵されている。
また、初代の実子である二代・中村半兵衛は、技術と屋号を継承し、錫器製作を商業的にも成功させた。彼の代には、京都御所や寺院からの注文も増え、錫半は確固たる地位を築いていった。
■ ライバルたち
同時代に活躍した錫職人としては、大阪の「玉川屋」初代・岩井常右衛門が挙げられる。彼の作はより江戸的で重厚な装飾を好む傾向にあり、華やかな鏨彫や彩錫(いろすず)を得意とした。
中村半兵衛と岩井常右衛門は、直接の交流記録こそ残っていないが、京都と大阪という地理的な近さと、茶道文化との関係の深さから、作品を通じた「美の競演」は幾度となく行われていたと考えられる。
また、江戸の江戸錫師・鈴木源十郎も無視できない存在で、彼の作品は江戸の大名や商家で重宝された。源十郎の錫器は直線的で緊張感のある造形が特徴で、京都的なやわらかさを持つ錫半の作風とは好対照をなしている。
■ 現代に続く「錫半」
2020年代に入っても、「錫半」は現存し、中村家の当代が八代目・中村半兵衛を襲名し、京都室町の店舗兼工房で製作・販売を続けている。現代の半兵衛は、伝統的な錫器に加え、現代建築や空間演出とのコラボレーションも手掛けており、ホテルや料亭のインテリアとしても採用されている。
彼はまた、後進の育成にも力を入れており、京都伝統工芸大学校や京都市立芸術大学との連携を通じて、錫という素材の魅力を広め続けている。
◎関連、参考サイト
日本の代表的な錫(すず)の茶器を鑑賞できる美術館・資料館として、以下の施設が知られています。伝統的な金工芸や茶道具の中で、錫器を含む作品が所蔵・展示されています。
1. サントリー美術館(東京・赤坂)
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特徴:日本の工芸を中心にしたコレクションで、茶道具、金工、漆器などを幅広く展示。錫製の茶器もテーマによって展示されることがあります。
2. 大阪市立東洋陶磁美術館(大阪・中之島)
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特徴:陶磁器中心の美術館ですが、東洋の工芸に関する企画展で金属製の茶器(錫や銀など)も扱うことがあります。
3. 京都国立近代美術館(京都・岡崎)
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特徴:近代工芸に力を入れており、昭和以降の金工家の作品(錫含む)を所蔵。展示替えで茶器が登場することもあります。
4. 金沢市立安江金箔工芸館(石川・金沢)
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特徴:金工芸に関連する展示が多く、錫の器や茶道具が展示されることも。加賀の錫細工の系譜にも触れられる可能性があります。
5. 富山県高岡市 藤子不二雄ふるさとギャラリー併設「高岡伝統産業館」
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特徴:高岡銅器の地で、錫器も含めた伝統金属工芸を展示。茶器や酒器の錫作品も見られます。
■その他の買取品目
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