福岡市西区で備前の宝瓶を買取りました!

備前焼の宝瓶/骨董品買取の福岡玄燈舎
備前焼の宝瓶

◇「カオスの丘の骨董天国」

梅雨である。
だが、かといって連日雨かというとそうでもない。福岡の空模様は、泣いたかと思えばすぐ笑い、かと思えばまた拗ねるという、気まぐれで感情の読めぬ三歳児のようである。雨か晴れかと問われれば「どっちでもない」と答えそうな中途半端さ。こういう時期は、人もまた中途半端にやる気を失い、心も体もだらけ切る。私などはもう完全にその典型で、ここ最近は晩酌のビールが水のように喉を通り、お腹まわりはすっかり“人生二周目の浮き輪”状態。鏡に映る己のだらしなさに「これは鍛えねば」と思う間もなく、次の晩にはまた冷えた缶をプシュッと開けている。気合いも根性もすっかり発酵し切って、泡のように消えた初夏のある日――

一本の電話が鳴った。

電話口の声は、福岡市西区のとあるご婦人。曰く「父の集めた茶道具や掛軸、中国の陶磁器などが、家に山ほどあるのです」とのこと。
“山ほど”という表現が誇張ではないことを、私は経験上知っている。「決して裏切らない…と」
「場所は海が見える高台の住宅地です」
……と来た。

この“海が見える高台”というやつは、骨董業界においてはちょっとしたプレミアムエリアである。景色が良い=家が古くてデカい=収納力がある=出てくる物も大量、という“鑑定士の法則”がある。これはもはや統計学の領域だ。気分はすっかり“掘り出し隊長”。ビールの酔いもどこへやら、私は即座に着替え、カーナビに目的地をセットした。

道中、車のラジオから流れる演歌がなんとも沁みた。高台というのは、なんだか人生の終盤を連想させる。人は下から上へと登ってきて、最後に絶景を見るのだ。だがそれも一瞬で、あとは下るだけ。――そんな哲学的なことを考えているうちに現地に到着。丘の上に建つそのお宅は、見事に時の流れを蓄積したような風情のある日本家屋であった。

チャイムを押すと、中から現れたのは腰の低い中年女性。
「すみません、片付いてなくて……」
と恐縮するその言葉を裏切ることなく、家の中は「混沌のミュージアム」状態であった。入ってすぐの応接間からして、書棚が倒壊寸前、床には桐箱、屏風、謎の巻物が所狭しと積まれている。20年以上、誰の手も入っていないというその部屋は、カオスの王国にふさわしい空気を漂わせていた。

まずは“発掘”からだ。上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり、タオルを首にかけて私は骨董品の採掘員となる。埃をかぶったダンボール箱、異国の香りがする古い布、ネズミのかじった跡のある木箱などを手際よく仕分けていく。幸い、足の踏み場はまだ確保されており、アクロバティックな身のこなしでなんとか前進は可能だった。途中、戦前の美人画やら「マルクス資本論の初版」らしき本、怪しげな仏像などが次々と出土する。

そして、問題の茶道具ゾーンに突入した頃には、私の胃袋は既にお昼を過ぎたことを報せてきたが、茶碗の銘を見るまでは休めない。利休系、楽茶碗、そして時折混じる“お遊び系”。
「これ、近所の陶芸教室の先生の作品ですね」
「じゃあ売れませんか?」
「……ええ、良い物とは思いますが、商業的な意味では厳しいです」
という、気まずさ混じりの応答を何度か繰り返す。

宝瓶の湯注ぎ/骨董品買取の福岡玄燈舎
宝瓶の湯注ぎ

午後二時――
やっと箱の半分ほどを終えた頃、ようやく“それ”が出てきた。
桐箱に「金重陶弘」と書かれた細筆の文字。
開けると中から姿を現したのは、見事な備前焼の宝瓶。端正な胴と渋い胡麻の釉が光を吸い込むようで、手に持つと心地よい重みがある。明らかに並の代物ではない。
「これは……良い品ですね」
「え? 価値あります?」
「ええ、胃もたれが吹き飛びました」
と言ったら、お客様は「変な人」と苦笑された。

宝瓶というのは茶器の中でもなかなか珍しいもので、しかも金重陶弘や陶陽の作品ともなれば、それだけで一冊本が書ける。まさにこの日一番の“当たりくじ”である。

残りの箱を一気に査定し、掛軸の表装の状態をチェックし、最後に中国陶磁器の真贋を見極めたところで、時刻は夕方五時を回っていた。窓の外には海と空の境界が溶け合い、水平線がほんのり茜色に染まり始めていた。
「長い一日でしたね」
とお客様がつぶやき、私も心から頷く。まるで文化財の山と格闘したような一日。いや、実際そうだった。

最終的に査定額もご納得いただき、全品買取成立となった。爽やかな潮風とともに、私の心もようやく晴れたようである。
「金重陶弘の宝瓶については、あとで詳しく教えてください」
と頼まれたが、私はにっこりと笑って言った。

「ええ、まずはビールの泡が落ち着いてからにしましょう」

この日の仕事は、なんだか“人生の棚卸し”を手伝ったような、そんな気分を残して幕を閉じた。

この宝瓶については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。

買取品の詳細

◇今回の買取品は「金重陶弘」さんの宝瓶です。湯注ぎと湯呑のセットで状態も良く箱もありました。栞はないものの人気の宝瓶でした。造りとしては摘みはシンプルなものでやや控えめなデザインでしたがとても良い宝瓶でした。ありがとうございました。

 

買取査定額

◇宝瓶の買取査定額ですが造りやデザイン、作者、時代、付属品の有無でかなり差があります。やはり摘みや形が目皿しいもの、例えば摘みが虫や動物をかたどったもの等はは人気で高価買取が可能です。ご自宅に宝瓶や茶器がありましたらご相談ください。

■過去の宝瓶の買取例

湯呑も土味が良いものです/煎茶道具買取の福岡玄燈舎
湯呑も土味が良いものです

伊勢崎陽山 宝瓶 昆虫摘み 500,000円
入江光人司 備前焼 手造宝瓶400,000円
金重陶陽 宝瓶 250,000円
鈴木黄哉 作 釉掛け 瑞祥如意摘み 宝瓶 150,000円 他多数

宝瓶とは?

◇宝瓶(または宝鼎)は、主に煎茶道(せんちゃどう)で用いられる急須の一種で、取っ手や持ち手がない湯注ぎ器を指します。中国の影響を受けて江戸時代後期に日本へ伝わり、以来、煎茶文化とともに発展してきました。一般的な急須とは異なり、宝瓶は比較的小ぶりで、蓋と口、そして胴体のみで構成されており、手で直接包み込むようにして使用するのが特徴です。

その名の由来は、中国の青銅器「宝鼎(ホウテイ)」に由来するとされ、古来より貴重な液体や香り高い飲み物を注ぐ器として重宝されてきました。


歴史と伝来…

中国から日本へ

宝瓶のルーツは、古代中国の茶器にさかのぼります。とくに**明代から清代にかけての「宜興(ぎこう)紫砂壺(しさこ)」**の系譜が強く、日本の文人や僧侶がこれに感銘を受け、江戸中期以降、煎茶文化の隆盛とともに宝瓶も日本に根付いていきました。

日本での発展

江戸後期になると、煎茶道が武士や知識人の間で流行し、宝瓶はその象徴的な茶器となりました。とくに**文人趣味の「煎茶道」**においては、形式にとらわれず、美と実用の融合を追求した結果、宝瓶はその象徴的存在となり、焼き物の名産地で盛んに製作されるようになります。


使い方と特徴…

宝瓶は、主に玉露や高級煎茶を丁寧に淹れるために使われます。湯温を下げてじっくり抽出する日本独自の煎茶法に適しており、その構造上、湯冷ましが早く、繊細な茶葉の旨味を引き出すのに適しています。

使い方の基本

  1. 茶葉を入れる
     茶葉を少量(2〜3g)入れる。上級煎茶や玉露向き。

  2. 湯を冷ましてから注ぐ
     70℃前後の湯を注ぐ。冷ます時間が短く済むのも宝瓶の利点。

  3. 蓋をして蒸らす
     約1分程度待つ。

  4. 片手で包み込むように持ち、茶碗へ注ぐ
     胴体ごと持つ独特のスタイルで、やわらかな所作が求められる。

注ぐときに蓋をわずかにずらして、内部の茶葉が流れ出ないようにする技術も美しさの一つとされます。


宝瓶が作られる産地と代表作家…

宝瓶は、日本各地の陶磁器産地で製作されていますが、特に常滑焼、萬古焼、京焼、瀬戸焼、備前焼、有田焼などが有名です。それぞれの焼き物の特徴を生かした宝瓶が制作されています。

1. 常滑焼(愛知県)

特徴: 赤茶色の鉄分を含んだ焼締めの肌が特徴。無釉でも味わいが深く、湯をまろやかにする効果があるとされる。

代表作家:

  • 急須名工・山田常山(初代~三代)
     とくに二代・三代常山は宝瓶にも取り組み、美しいバランスと茶味を引き立てる造形で高い評価を受けた。

2. 萬古焼(三重県)

特徴: 耐熱性に優れ、紫泥を使った中国風の意匠が多い。

代表作家:

  • 三代・加藤斉三(かとう さいぞう)
     煎茶器、特に宝瓶に優れた名工として知られ、落ち着いた釉調と高い精度で評価された。

3. 京焼・清水焼(京都府)

特徴: 繊細で優雅な絵付けが魅力。染付、金彩、釉薬による美しさが際立つ。

代表作家:

  • 清風與平(せいふう よへい)
     幕末から明治にかけて活躍した陶工。煎茶道具にも精通し、美術工芸品としての宝瓶を数多く手がけた。

  • 尾形周平
     明治時代の京焼を代表する人物。精緻な宝瓶や煎茶碗を数多く制作。

4. 備前焼(岡山県)

特徴: 釉薬を用いず、焼締めによる自然な景色が魅力。茶の味を変化させる「呼吸する陶器」とも。

代表作家:

  • 金重陶陽(かねしげ とうよう)
     人間国宝。宝瓶の作例もあり、力強くも品のある造形美が特徴。


代表的な宝瓶の作品例…

  1. 「朱泥宝瓶」山田常山(三代)作
     艶やかで手に馴染む朱泥の宝瓶。蓋と胴の隙間の精密さと、茶の味を損なわない呼吸性に定評。

  2. 「染付宝瓶」清風與平作
     藍色の上絵で唐草や梅紋をあしらい、繊細な京焼の美を体現。鑑賞用としても価値が高い。

  3. 「備前宝瓶」金重陶陽作
     窯変(ようへん)による自然な色調と、堂々たる造形。日常使いよりも茶会用や鑑賞に向く。

  4. 「青磁宝瓶」景徳鎮写し(近代 有田焼)
     透き通るような青磁の肌に龍文や花文が彫られた華やかな宝瓶。


現代の宝瓶と人気作家…

現代でも宝瓶は愛好家に根強い人気があり、国内外で活躍する作家たちが個性的な作品を生み出しています。

  • 中里隆(唐津焼)
     野趣と端正さを併せ持つ現代唐津の名工。宝瓶も精力的に制作。

  • 黒田泰蔵(白磁)
     純白の磁器にこだわる孤高の作家。シンプルで洗練された宝瓶が高く評価されている。

  • 石黒宗麿(京焼)
     人間国宝。宝瓶の作例は少ないが、煎茶器全般で知られ、茶人にも好まれた。

★金重陶弘について…

金重陶弘作品です/骨董品の買取は福岡玄燈舎
金重陶弘作品です

生い立ちと略歴

  • 代々の系譜:金重陶弘は、備前焼の家系に生まれ、祖先は代々「利右衛門」を襲名する名門窯元の七十六代目です

  • 出生時期・環境:1890~1900年前後に生まれたとされ、その頃に備前焼復興期として新たに窯を構えた「金重利陶苑」を擁する家に育ちました

  • 号の由来:陶弘は七十六代・利右衛門としての立場を示す号であり、「利陶苑」という窯号を用い、父系から陶芸を継承し、窯の伝統と技術を引き継ぎました


作陶の特徴とスタイル

  • 窯変(ようへん)備前焼への挑戦:伝統的な素朴な焼き締めに加え、火色の変化を意図的に出す「窯変」技法を取り入れ、その景色と力強い土味を生かした作風が特徴です

  • 用途の広さ:茶碗・湯冷まし・徳利・花入れなど、茶道や華道にも対応する茶道具・花器が中心。形の整いから淵の緋襷・胡麻などの自然釉まで、技術的にも多彩な表現に秀でています

◎関連、参考サイト

国立工芸館(石川県金沢市)

  • 所蔵作品:「備前宝瓶」(山本陶秀/約1953年制作)など伝統的な備前焼宝瓶を所蔵しています

  • 概要:工芸に特化し、陶磁を含む茶道具や生活工芸品を多数収蔵・展示。備前焼の歴史的・技術的背景も学べます。

東京富士美術館(東京都八王子市)

  • 代表作品:景徳鎮窯「青花宝相華唐草文梅瓶(Mei‑ping)」など、宝瓶に類する中国青花磁器を収蔵し、蒐集品の一部として公開

  • 特色:東洋美術を幅広く扱い、中国・朝鮮・日本の陶磁器に強く、宝瓶や類似形の展示も定期展で見られます。

大阪市立東洋陶磁美術館(大阪府大阪市)

  • 特筆点:茶入や瓶といった東洋陶磁の名品を所蔵。展示室には梅瓶、管耳瓶、宝瓶タイプの作品などが並び、自然光で鑑賞できる配慮も

  • 展示会:「CELADON—東アジアの青磁のきらめき」など特別展で関連器を紹介。自然な釉・造形を楽しむに最適です。

ミホミュージアム(滋賀県甲賀市)

  • 所蔵品:重要文化財を含む日本・東洋の陶磁を多数所蔵

  • 展示形式:茶道具、茶碗なども公開され、企画展によっては宝瓶を含む茶器が展示されることがあります。

 

■その他の買取品目

 

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