福岡市早良区で献上唐津焼を買取りました!

◇『唐津の風が吹いた日 〜早良区骨董異聞〜』
ここ数日の福岡は、まるで巨大な蒸し器の中で生活しているような暑さで、道ゆくタヌキもタオルを首に巻いて日陰に避難している始末。地震に揺れ、気温に煮え、電気代に震えながら、私はといえばエアコンと扇風機をダブルで回しながら、冷えた麦茶を握りしめ、ささやかに現実逃避していた。
「何かこう、心がガツンとくるような一品が来んもんか…」
そんな涼風のような希望もむなしく、電話もメールも鳴らぬ日々。骨董屋稼業というのは、派手なネオン街ではなく、地味な農道をトボトボ歩くような毎日なのだ。そんなとき、久々に電話が鳴った。
「すみません、実家の整理をしてまして…唐津焼が結構あるんですけど」
受話器の向こう、やや恐縮気味な女性の声。その響きに、私は脳内で唐津焼の壺がカラカラと転がる音を想像し、腰の重かった体に、スッと芯が通った。
現場は福岡市早良区。古い倉庫つきの平屋と聞いて、脳内で「これは一発くるかも」とガッツポーズ。だが、そんな期待は、唐津くんだりの春の海のように甘くも揺らめくものであった。
さて、当日。日差しがコンクリートを炙りに炙る午後、私は車のクーラーをフル回転させながら目的地に向かった。ナビが「到着しました」と無機質に告げた先には、確かにそれらしき平屋が静かに佇んでいた。
〇「こんにちは〜骨董屋でございます〜」
チャイムを鳴らすと、奥からひょっこりとご婦人が登場。いかにも「唐津の旧家のお嬢さんが福岡で暮らしてます」的な風情で、着こなしから所作まで、品の良さが滲んでいた。
「こちらの倉庫に…父が集めた焼き物などがたくさんありまして…」
案内された倉庫の扉がギイと音を立てて開いた瞬間、私は本能的に息を呑んだ。
皿、壺、茶碗、掛軸、日本刀に小刀、火鉢に香炉――ジャンルの祭りじゃワッショイ状態。まるで「唐津城下町の歳末大放出市」でも始まるのかという様相。
だが私は、慌てない。骨董屋は、慌てると負けである。目利きというのは、心拍数と同じくらい静かでなければならぬのだ。
「では、拝見いたしましょう」
持参した手袋をパチンと装着。まるで外科医がメスを握るかのような気概で、まずは皿から一枚ずつ丁寧に確認していく。
見れば見るほど、これはなかなかの仕事。ほとんどが「献上唐津」と呼ばれる、江戸から明治にかけての上物だ。焼きがやや甘いものや、釉薬のムラが味になっているもの、三島手とよばれる象嵌模様のものまで多種多様。なかには見事な鉄絵の壺もあり、これはと思った瞬間に、ぐらり。
「……あっ、見込みにヒビですね、惜しい」
宝探しとは、期待と現実の綱引きである。良い品はある、しかし状態がよろしくない。焼き物とは、手の中でいくら魅力的でも、割れていればお客に売れぬ。骨董は一期一会の勝負であり、幻想と現実の間で我々は踊るのだ。
一通り見終わるまでに、約3時間。
まるで茶会のあとの正座で痺れた足のように、体は重い。が、心はどこか軽くなっていた。
〇ご婦人に査定額を告げると、少しだけ口角が下がった。
「もう少し、いくかと…」
私としても、もっと乗せたい気持ちは山々だったが、状態の説明を丁寧にし、現在の相場感や市場の流れをお話しすると、ふんふんと頷いてくださり、最終的には快くご承諾。
買取成立となった。
「きっと、父も喜ぶと思います」
そのひとことが、こちらとしても沁みた。骨董屋の役目とは、物の値段をつけることではない。その来歴や思いに、ひとつの着地点を与えることなのだと、あらためて思う。
〇さて今回、持ち帰った中でもひときわ気になったのが「献上唐津」の大皿である。

三島手の技法が使われ、白化粧の上に細かな文様が施されており、色味は全体に地味。だがそれがいい。派手ではないが、品格がある。まるで寡黙な武士のような存在感だ。
唐津藩御用窯のものではないかと思われるが、確証までは取れず。ただ、釉薬の具合や土の質からみて、江戸後期のものと判断した。保存状態はよく、唯一無二の風情が漂う。
この皿、いずれ店のガラス棚にそっと飾りたい。静かな照明のもと、ひとつの時代の証人として、誰かの心をまた震わせる日がくるかもしれぬ。
〇というわけで、夏の早良区にて、唐津の風を背負った骨董たちとの邂逅は、静かに幕を閉じた。
蒸し暑さに汗だくになりながらも、手に入れた宝と、交わされた言葉は、この仕事の醍醐味を再確認させてくれた。
またどこかで、倉庫の奥から、時代を旅した陶片たちが、私を呼んでいるかもしれない。
そのときは、また麦茶片手に出かけるとしよう。
このについては下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。
買取品の詳細
◇この「献上唐津」は代表的な図柄である三島手の大皿で鳥や幾何学文様と細かい貫入がたくさん入り乱れた古手の良い唐津焼でした。大きなかけや割れヒビもなく歴史や時代を受け継いだオーラが感じます。
買取査定額

◇献上唐津焼の買取査定額もしくは評価額ですがまず第一に文様や作風、次に状態や時代、ほかには共箱があればより高価買取&できます。
ご自宅に 唐津焼が御座いましたら一度拝見させてください。もちろん状態や時代、作者、作品でもお値段は変わりますのでご了承ください。
■過去の作品買取例…
古唐津ぐい呑み 400,000円
石黒宗麿 斑唐津 杯 300,000円
絵唐津沓茶碗 150,000円
十二代 中里太郎右衛門 本人作 唐津 粉引 茶碗 100,000円 他多数
古唐津と献上唐津焼とは?

◆九州・佐賀県北西部、玄界灘を望む港町・唐津。ここで生まれた「唐津焼(からつやき)」は、日本の陶磁史において、質実剛健な魅力をもつやきものとして知られています。その素朴であたたかな風合いは、茶人をはじめとする数多の陶磁愛好家に愛されてきました。
①唐津焼の始まり:朝鮮陶工の技術から生まれた焼物
唐津焼の起源は、16世紀末、安土桃山時代の終わりごろ(文禄・慶長の役/1592〜1598年)にさかのぼります。
この時期、豊臣秀吉による朝鮮出兵(いわゆる文禄・慶長の役)に際して、多くの朝鮮人陶工が日本に連れてこられました。中でも現在の佐賀県唐津市一帯には、朝鮮の陶工たちが数多く住み着き、朝鮮半島由来の技術をもとに陶磁器の制作を始めたのが、唐津焼のルーツとされています。
最初に陶窯が築かれたのは、唐津市北波多の「岸岳」周辺とされており、この地域にいた松浦氏が庇護したと伝わります。やがて唐津周辺には大小数百の窯が開かれ、「一楽二萩三唐津(いちらく・にはぎ・さんからつ)」と称されるほど、茶人からの人気を得るようになりました。
②唐津焼の特徴と技法:土のぬくもりと自然釉
唐津焼の魅力は、その素朴さと実用性、そして自然釉による豊かな表情にあります。唐津周辺の鉄分を多く含んだ土を使用し、手触りが温かく、日常使いに適した丈夫な焼き物として定着しました。特に人気なものは古唐津のぐい呑みでとても良い風景の物がたくさん残っています。
主な技法には以下のようなものがあります:
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絵唐津(えがらつ)
鉄絵(酸化鉄の顔料)を用いて、草花や幾何学文様などが描かれたもので、筆のタッチが軽妙。素朴さのなかに洒脱さが光ります。 -
斑唐津(まだらがらつ)
灰釉と鉄釉が溶け合い、斑模様となった唐津焼。色味は褐色〜黄味がかった灰色など、景色に富みます。 -
三島唐津(みしまがらつ)
朝鮮半島の三島手の技法を踏襲し、型押しや象嵌で文様をつけ、白化粧で仕上げる繊細な意匠の焼き物。 -
刷毛目唐津(はけめがらつ)
白い化粧土を刷毛でざっくりと塗った技法。大胆かつ即興的な美が見られます。 -
朝鮮唐津
鉄釉と飴釉が掛け分けられ、溶け合うことで幻想的な色合いを見せる技法。朝鮮由来の趣を色濃く残すスタイルです。
これらの技法は、実用的な日用雑器にも、格式ある茶道具にも幅広く展開されてきました。
③歴史的背景と発展:江戸時代から近代へ
江戸時代に入ると、唐津藩の御用窯として「御茶盌窯(おちゃわんがま)」が整備され、藩主や幕府への献上品として質の高い唐津焼が制作されるようになります。これが、いわゆる「献上唐津」と呼ばれるもので、江戸中期以降は美術工芸品としての地位も確立されました。
その後、有田焼や磁器の隆盛により、次第に唐津焼の需要は減少しますが、明治・大正期には再評価の機運が高まり、柳宗悦ら民芸運動の流れのなかで、素朴な陶器の価値が再び見直されました。
さらに、昭和期には中里無庵(なかざと・むあん)やその息子・中里太郎右衛門らが伝統を継承し、唐津焼は「用の美」として全国的に高く評価されるようになりました。
④現代の唐津焼と代表的作家
現在では、唐津焼は伝統工芸として認定され、多くの陶芸家が窯を構えています。中でも中里太郎右衛門(十三代・十四代)は唐津焼を現代に伝える重要な作家であり、彼らの作品は国内外の美術館に多数収蔵されています。
また近年では、若手作家によるモダンな唐津焼も登場し、料理店やインテリアとして新たな市場を開拓しつつあります。
⑤唐津焼が観られる主な美術館・施設
■ 唐津市近代図書館(唐津焼展示室)
唐津市中心部にあり、郷土資料や唐津焼の歴史をパネルや実物で展示。地元ならではの視点で唐津焼を紹介しています。
■ 中里太郎右衛門陶房(佐賀県唐津市)
唐津焼の名門・中里家の陶房であり、ギャラリーも併設。古唐津の再現作品から現代作品までを展示・販売。
■ 九州陶磁文化館(佐賀県西松浦郡有田町)
唐津焼をはじめ、九州各地の陶磁器を収蔵・展示。唐津焼の歴史的名品や茶道具を見るには最適の施設です。
■ 出光美術館(東京都千代田区/福岡市)
茶道具を中心に、日本のやきものコレクションが豊富。古唐津の逸品も所蔵。
■その他の買取品目
★骨董品買取の福岡玄燈舎では古美術品の他、アンティークや掛軸、茶道具、書道具、絵画、仏像、勲章、中国陶磁、甲冑など多彩な骨董品を査定買取しております。お見積りだけでも構いませんのでお気軽にご相談ください。