福岡市博多区で蒔絵の棗(茶道具)を買取りました!

◇いやはや、近頃の福岡の夏というやつは毎年なかなかどうして油断ならんもんだが、今年の七月はその中でも特に「本気」を出してきたようで、朝から晩まで35度。アスファルトなんか湯気が立っとるし、木影すら熱い。なんちゅうか、ここは九州じゃなくて、テネシー州の湿地帯かと錯覚するような空気感。体も頭も、干物のように干からびるならまだしも、じっとり湿気で蒸しあがって、釣り糸垂れてる魚よろしく、ぼーっとしておるわけだ。
そんな脳ミソまで茹で上がる昼下がり、どこからともなく「ピリリリリ」と鳴る電話。これがまた、暑さとともにかき消されそうな古めかしい呼び鈴の音だったが、聞き逃さなかったのは、この夏空の下でもお宝探しにかける情熱だけは冷めてなかったからだ。
受話器を取れば、聞こえてきたのは意外と涼しげな女性の声。
「ちょっと、茶道具がいっぱいで困ってるの」
この「困ってる」という響きが実にいい。昭和のオヤジギャグと一緒で、「困ってる」と「宝が眠ってる」は、だいたい紙一重。聞き流せばただの片付け依頼だが、ここはプロの鼻がピクピクと反応するところ。まるで、釣り糸の先にググッと大物が食いついたような、そんな直感が走る。
場所は福岡市博多区。これはまた、海風も混ざるあたりで、古い家屋がポツポツ残る界隈。期待せずにはいられない。暑さをものともせず、愛車のエアコンをフル稼働にして、一路博多区へ。
たどり着いたのは、想像以上の大きな日本家屋。瓦屋根がずっしりと構え、玄関先には立派な松の木が腕組みするように枝を広げている。「こりゃ、当たりの予感だ」と、額の汗をぬぐいながら門をくぐった。
出迎えてくれたのは、電話の主と思しき奥様。日傘を片手に、どこか気品のある佇まいだ。話を聞くと、ご実家が代々続く家柄で、茶道具が増えに増えた挙句、もう収納する場所も気力もないとのこと。
案内された客間に入って、まず目に飛び込んできたのが、紫檀のどっしりしたテーブル。その上には、黒光りする黒檀の茶棚。いや、それだけじゃない。その茶棚には、まるで骨董品の百貨店状態で、鉄瓶、銀瓶、煎茶道具の急須や湯呑、中国の錫製茶入れ、茶托がズラリと鎮座しておる。
さらに目を引くのは、壁にかかる一幅の掛軸。近寄って見ると、これがまた中国美人画。ふんわりと微笑む美女が、こちらをじっと見つめている。まるで「アンタ、ちゃんと査定しなさいよ」とでも言わんばかりの迫力。
こうなると、もう頭の中の湿気も吹き飛び、骨董商の血が騒ぐ。
「さて、どこから料理していこうか」と、心の中でニヤリ。
まずは鉄瓶から。どっしりとした南部鉄瓶、錆具合も程よく、堂々たる風格。蓋の裏には「龍文堂」の刻印。これはもう、当たりくじ一枚確保といったところ。
続いて銀瓶。これがまた、重さが違う。ずしりとした銀の質感と細工の緻密さ。底に「純銀」の刻印、間違いなし。奥様いわく「おじい様が昔、東京で買い求めたもの」とのこと。なるほど、東京銀座界隈の老舗か。
さらに煎茶道具の山。紫砂の急須に、景徳鎮の湯呑。おまけに中国の錫製茶入れや茶托。どれも古手のものが多く、手入れも行き届いている。これならば、目利きの愛好家たちの心をくすぐること間違いなし。
そして極めつけは、赤富士の棗。

これはもう、ただの棗(なつめ)じゃない。朱塗りの上に、豪快にそびえ立つ赤富士。その堂々たる姿と、細密に描き込まれた松の木々。蓋裏には、名工の蒔絵師 宮田宗景の銘。
「奥様、これ…相当な逸品ですよ」
そう告げると、奥様も目を丸くする。「そんなに良いものだったのね」と。いやはや、まだまだ奥は深い。骨董の世界は、持ち主ですらその価値を見落とすことが多いのだ。
一通り査定を終え、金額を提示。少し考えた奥様は「それなら、お願いします」と快諾。ありがたや、ありがたや。おかげで、この湿気も不快指数も吹き飛ぶ瞬間。
荷物をまとめながら、ふと思う。
こんな猛暑の最中、釣り糸垂れて、ただボーッとしてたら、赤富士の棗なんて大物は引っかからなかっただろう。やはり、どんな時でも気を抜かず、耳を澄まし、目を光らせ、骨董の神様のサインを見逃してはならぬ。
家を後にし、車に積み込んだ茶道具の数々。助手席の赤富士の棗が、夕焼けの空に照らされて、なんとも誇らしげに見える。
帰り道、汗だくになりながらも、ふと頭に浮かぶのは、「暑さで茹だるより、骨董で舞い上がる方がええ」
そんな独り言をつぶやきながら、エアコン全開の車内で、今日は良い夢が見られそうだと思いつつ、福岡の夏空に沈む夕陽を眺めるのであった。
この赤藤の棗については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。
買取品の詳細
◇この「宮田宗景の棗」はとてもよくできており、特に赤富士の蒔絵の繊細さには驚くばかりです。そして共箱の共布、栞も付属しており状態も殆ど使用感のない美品の中棗でした。ありがとうございました。
買取査定額
◆蒔絵の棗の買取査定額もしくは評価額ですがまず第一に人気作家かどうか、そして蒔絵の豪華さ。特に沈金をふんだんに使用した厚めの蒔絵棗には高額な査定が期待できます。さらに状態、と付属品の有無などでより高価買取&できます。尚、ご自宅や倉庫に茶道具や棗などありましたら是非、骨董品買取の福岡玄燈舎にお声掛け下さい。宜しくお願い致します。
■過去の作品買取例

金箔叩紅白梅蒔絵中棗 40000円
白檀塗 紫陽花蒔絵中棗28000円
雪月花蒔絵金輪寺棗 20000円
鵜飼蒔絵 籠茶器 15000円 他多数
宮田宗景とは?

🌱 生い立ち・略歴
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出身・生地:越前漆器発祥の地、福井県片山地域で育つ。幼少期から漆工芸文化に触れる環境にありました。
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修業時代:昭和45年(1970年)より、越前蒔絵の第一人者・箕輪一星(みのわ いっせい)に師事し、本格的な技を学ぶ。
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独立と研鑽:昭和50年(1975年)に独立し、以後自身の工房を設けて“越前蒔絵師”として研鑽を続ける。
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受賞歴:越前蒔絵見本市に入選し、漆芸協会賞も受賞。地元と全国で作品が高く評価されてきました。
🎨 作品の特徴
1. 細密・繊細な植物モチーフ
萩、芒、秋草、竹、桐、藤などの草花や木々を、金・銀粉を駆使し情緒豊かに表現。晩秋の風情や季節感を忠実に描きます。
2. 高台寺蒔絵・金輪寺茶器の技法継承
桃山時代に特有の「高台寺蒔絵」様式を取り入れ、格式ある伝統に忠実でありながら現代的なアレンジに昇華。j
3. 螺鈿(らでん)や金箔使用
螺鈿や金箔を用いた装飾で、瑞々しい煌めきをもたらす。作品によっては蒔絵と螺鈿を融合させその豪華さが際立ちます。
4. 茶道具との融合性
棗(なつめ)、平棗、茶入、細中次まで、茶の湯に適した形状を選び、使い勝手を損なわずに芸術性を兼ね備えています。
✨代表的な作例
以下は市場において特に人気の高い作品です:
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「中棗 早蕨蒔絵(わらびまきえ)」:新緑のわらびを金粉で繊細に表現した蒔絵茶器 「白漆川蝉蒔絵 中棗」:涼しげな川蝉を白漆地に配した清涼な印象の茶器
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「竹林蒔絵 中棗」:節を繊細に描き込んだ竹柄が人気
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螺鈿 × 糸トンボ蒔絵棗:虹色に輝く螺鈿と金蒔絵のトンボが組み合わさった高級感のある逸品
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金輪寺茶器シリーズ:春・秋野、月見に兎など、四季をテーマにした多蓋茶器。高台寺文化を彷彿とさせます
👥 師匠とライバル
📘 師匠:箕輪一星(みのわ いっせい)
越前蒔絵を代表する名工で、金箔・銀粉の使い方や植物描写などを宗景に伝授した重鎮。正統派の技が宮田作品に受け継がれています。
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吉田宗景:名前も似ており活動時期も重なる越前蒔絵の俊英。「玄々斎好写 徳風棗」などが見られます
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他の越前・輪島蒔絵師:加賀蒔絵師や輪島塗の作家も競合。素材や技術は異なるものの、蒔絵茶器市場では比較される存在です。
🧭 総合評価と市場価値
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価格帯:中棗は1万~3万円台が一般的。螺鈿や金輪寺系の凝った茶器は高価格帯に達します。
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技術評価:繊細な筆致、伝統と現代感覚の融合力が高く評価されています。入選・受賞歴も確か。
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コレクション性:四季蒔絵、螺鈿装飾、伝統モチーフなど多ジャンル展開が広く、蒔絵愛好家にとって魅力的な選択肢です。
◎関連、参考サイト
茶室 明章庵(川崎・万楽堂系列)
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展示例:夜桜棗 少庵好写 宮田宗景作を常時展示・販売中
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特徴:川崎市にある店舗兼茶室で、実際に手に取って購入や茶の湯で使用可能。中棗など希少な作品に出会える可能性があります。
万楽堂(川崎・系列店)
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展示例:Instagramなどでも紹介されており、中棗「祇園祭」など季節の茶器が並ぶことがあります
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特徴:万楽堂グループで、茶道具と茶室文化を深く体験できる。定期的に宮田宗景の新作が展示されます。
■その他の買取品目
★骨董品買取の福岡玄燈舎では古美術品の他、アンティークや掛軸、茶道具、書道具、絵画、仏像、勲章、中国陶磁、甲冑など多彩な骨董品を査定買取しております。お見積りだけでも構いませんのでお気軽にご相談ください。