福岡市南区で掛軸(墨蹟)を買取りました!


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◇◆ 『清巌和尚とヒョウと煎茶の午後 ― 骨董屋見聞録』
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いやもう本当に、世界情勢も気候もおかしくなったのは知っていたが、ついに福岡の空までもが三日酔いのオヤジみたいになってしまった。
晴れたと思えば曇り、曇ったと思えば雨、そして突然ヒョウまで降り出す。お天道様だってひとりの神様であり、きっと気分の浮き沈みがあるのだろう。だが今日のそれは、まるで「今の日本どう思います?」と聞かれた政治家の答えくらい迷走している。気象庁よりまず精神科だ。
さて、そんな空模様のなか、本日の阿平骨董屋の出張査定は「掛軸と煎茶道具」。
茶器だというから前日の夜から私は気持ちを整えていた。もうね、骨董屋にとって煎茶道具の三文字は、恋する男子大学生における「デート確定」くらいの甘さと希望がある。「今日はイケるのでは?」と夢見てしまう。人間というものは学習しない生き物だ。
ご依頼のお宅に到着すると、重厚な門構え。庭には松、錦鯉、そして壺。なぜ金持ちの庭には壺があるのだろう。
通された居間には、先代の奥様が遺されたという茶器や掛軸、焼物や絵画が整然と並べられていた。こういう光景を見ると、骨董屋の心拍数はちょっと上がる。恋に落ちた中学生が「帰り道一緒だね」と言われたときのドキドキに似ている。
さっそく茶器を見ると、有難いことに人気の青花、道八、九谷焼の煎茶器が並んでいる。
「ありがとうございます奥様、時代は煎茶でございます」と思わず心の中で合掌。
時代も明治の物で、趣のある山水画の絵付け。こういう茶器は見ているだけで血圧が下がる。世の中の健康番組は煎茶器を特集すればいいのだ。「血圧を下げるには明治の山水の絵付けを眺めること」なんて言ってくれたら、骨董屋は万歳三唱だ。
問題は掛軸である。
現在の骨董界も流行があって、掛軸の売れ筋といえば断然、中国画。市場は嘘をつかない。
日本の渋めの書? 落ち着いた日本画? もちろん素晴らしい。素晴らしいのだが、市場価格という残酷な現実は素晴らしさに情け容赦ない。世の中が評価するのはときとして「本当にいいもの」ではなく「いま金になるもの」だ。
恋愛でいえば優しい男より悪い男がモテるようなものだ。説明すれば誰も納得するのに、なぜか誰も納得したくない。
とはいえ、仕事は仕事。
一本一本、紐をほどいて査定していく。
茶掛け、俳句、和尚の書、お寺関係の色紙――静かで端正な掛軸たち。
しかし相場は無情、一本一本ほどくたびに「心は感動、価格は小声」。
茶道の世界には一切の煩悩を断つ精神があるというが、本日の査定は逆に煩悩を刺激する。「頼む…一本でいい…一本だけ高いの来てくれ…」と頭の中で仏に泣きつく私。
俗物である。
すると突然、目に飛び込んできたのは――清巌和尚の書。
キタ。
いや、キタどころではない。
この瞬間、私の脳内では後光が差し、賛美歌が流れ、神々しいスモークが焚かれた。
清巌和尚の書――もし本物だったら、私の年収など片手で転がすほどの超級。
骨董屋としての夢と欲望と煩悩が一斉にスタートダッシュを決める。
だが同時に、逆側の私が囁く。
「落ち着け、こういうときに限って世の中は裏切る。恋愛も宝くじもそうだろう」

そして確認――
結果。
墨蹟(写し)だった。
その瞬間、全身から力が抜けた。
だが、だ。
不思議と、大きな安堵も湧き上がるのである。
清巌和尚の真筆を前にしてしまったら、私は命を削ってでも買わねばならない。店が傾く。人生が命がけになる。
つまり本物だったら「嬉しい」ではなく「危険」なのだ。
写しとわかったときの安堵は、数学の試験で「0点」ではなく「12点」だったときのあの感覚によく似ている。
褒められはしないが、地獄には落ちない。
人間、これで十分幸せだ。
結局、査定の値付けをして、今回のお品はすべてお任せいただけることに。
あの不安定な空模様の中での仕事だったが、いざ終えてみると不思議と晴れやかだ。
帰り際に外へ出ると、さっきまでのヒョウはやみ、曇り空の隙間から光が差していた。
思えば骨董屋という仕事は、天気に似ている。
晴れの日もあれば、曇りの日もあり、突然ヒョウに殴られる日もある。
だが、悪天候の先にほんの少しの光が差す。
そしてまた明日も同じ空の下で、骨董屋は茶器や掛軸と向き合う。
清巌和尚の写しを包みながら私は思った。
人生は本物ばかり追っていたら、たぶん疲れ果ててしまう。
写しだからこそ救われる日もある。
本物を持たずとも、本物を知っている人間でありたい。
――帰路、渋滞の中でそんな殊勝なことを考えていたが、
信号が青になっているのに前の車が動かず、
私は一瞬で煩悩を取り戻した。
まだまだ修行が足りない。ではまた…
買取品の詳細

◇この清巌和尚の掛軸はいわゆる印刷でした。しかしながら状態も良く箱も上質なものでした。製作された工房の栞も入っております。

買取査定額

◇◆寺院系掛軸の買取査定額もしくは評価額ですがまず第一に人気作家か否かと製作年代、次に状態、付属品の有無などでより高価買取&できます。この掛軸は墨蹟の印刷されたもので査定額はかなり低めでしたが参考資料としてはとても貴重な美術品です。ご自宅に掛軸や屏風が御座いましたらご一報ください。破れやシミなどがある掛軸も鑑定させて頂きます。宜しくお願い致します。

■過去の作品買取例
曹洞宗僧侶 良寛和尚肉筆 三行書 300,000円
西行法師『短冊歌切』80,000円
墨蹟 臨済宗僧侶 儀山善来 50,000円
南条文雄 梵字一行 30,000円 他多数
◇清巌和尚とは…

◇
1.略歴
清巌宗渭は、天正16年(1588年)に近江国(現在の滋賀県)大石(あるいは近江大石とも言われる)に、俗姓奥村氏として生まれました。
幼くして仏門に入り、9歳の時に京都・大徳寺(臨済宗大徳寺派)の玉甫紹琮(ぎょくほ じょうそう)に参じて得度しました。
玉甫紹琮没後は、兄弟子にあたる賢谷宗良(けんこく そうりょう)に参じ、法を嗣いでいきます。
寛永2年(1625年)には、後水尾天皇の勅命により大徳寺第170世住持に任じられました。
また、細川三斎(細川忠興)とは親交が深く、細川家菩提寺である塔頭・高桐院を本拠にしました。
慶安2年(1649年)には、幕府の命を受けて江戸・品川の東海寺(とうかいじ)住持にもなったという記録があります。
晩年、寛文元年(1661年)に後西天皇より「清浄本然禅師(しょうじょうほんねんぜんじ)」の号を贈られ、同年示寂しました。
2.功績と活動分野
清巌宗渭は、禅僧としてだけでなく、書画・茶の湯との関わりにおいても重要な足跡を残しています。
書・墨蹟としての功績
清巌は書を善くし、その作品は墨蹟として禅寺・数寄者の間で高く評価されてきました
特に「一行書」と言われる、縦長に一本の大筆で力強く書かれた作品が伝わっており、これは当時の大徳寺派の三筆とされる存在に連なる流れの中で、「仏名や詩句を太い線で大胆に書く」といった様式を代表するものでした。
例えば、「一」という一文字だけを大幅に書いた作品も知られ、「万法一に帰す」「一に多種有り、二に両般無し」という禅語の思想を視覚的に体現しています。今回の書も墨蹟ですが残念ながら印刷でした。
茶の湯・数寄との関わり
清巌は、茶道との関係でも特筆すべき僧で、特に 千宗旦(せんのそうたん)が参禅した師として広く知られています。
そのため、茶席の掛物(茶掛け)として清巌の軸が用いられ、数寄者からも好まれました。
また、茶事の心得として「清巌禅師茶事十八ヶ条」という書物が伝わっており、これは茶の湯を行うにあたっての心構え・作法を記したとされます。
3.代表的な書・言葉・逸話
有名な言葉・墨蹟
最も知られているものの一つに、「懈怠比丘不期明日(けたいのびく あすを きせず)」があります。これは「怠け者の比丘(僧)は明日を期(あて)にしてはならない。今日を疎かにして明日を期待してはいけない」という意味です。
この言葉が刻まれた軸が、茶室「今日庵」の由来になったという伝説があり、遅れてきた清巌和尚が見えたときに書き残したという逸話もあります。
この書が示すのは、明日ばかりを思って今日を怠るな、今この瞬間を大切に生きよという禅の教えでもあります。
代表的な作品
・「一」一大字(「一」という文字を大書したもの)――慶應義塾オブジェクト・ハブでも紹介されており、清巌の書の中でも出色と言われる作品です。
・その他、掛軸・墨蹟として数多く残されており、茶掛としての流通もあるため、古美術・掛軸の市場でも取扱われています
4.弟子・後継・影響
清巌の法脈・影響関係には以下のような点が挙げられます。
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千宗旦をはじめ、数寄・茶の湯の世界にも影響を与えており、茶席で用いられる墨蹟文化の中でその名を残しています。
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大徳寺派僧侶として、塔頭・諸寺を歴住し、また京都だけでなく堺・九州など各地に赴いたとされ、法の伝播・寺院運営という点でも活動が活発でした。
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書の様式面でも、南宋の書風(例えば張即之・虚堂智愚)を学んだとされ、日本の墨蹟文化における「大筆で書く一行書」の形式を確立・発展させたひとりと見なされています。
ただし、いわば「弟子一覧」として明確に名を挙げられている人物は文献上少なく、「茶の湯の世界に影響を与えた」「書画禅僧として名を成した」という広義の影響が主に語られています。
◎関連、参考サイト
1. 石川県立美術館(石川県金沢市)
2. 慶應義塾大学アート・センター(東京都/慶應義塾大学)
3. 大徳寺塔頭 高桐院(京都市北区)
■その他の買取品目
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