福岡県春日市で柿右衛門人形を買取りました!

古い柿右衛門人形です/骨董・福岡
古い柿右衛門人形です

九月のカレンダーをめくると同時に、私の体も心も少しばかり軽くなる。というのも、あの地獄のような真夏の暑さからやっと解放されたからである。朝夕の空気がほんのり冷たく、セミが居残り授業をサボった中学生のように声を細め、代わりにコオロギが「俺たちの出番だ」とばかりに鳴き始めた。季節の変わり目というのは、人間にとっても骨董にとっても大事な瞬間である。湿気が抜けるか残るか、それだけで骨董の運命も違ってくる。そんな折に電話が鳴った。「春日市で査定をお願いしたい」というお声である。春日市と聞くと、私はどうも“福岡郊外の優等生”というイメージを抱いてしまう。派手さはないが堅実、昔からの人の流れがある街。そこへ骨董の査定に呼ばれるのだから、きっと何かしらの歴史的風味をまとった品が出てくるに違いないと、勝手に胸を躍らせた。

伺ったお宅は築八十年の日本家屋であった。瓦屋根は苔をまとい、玄関の引き戸はガラガラと昭和の声を上げて開いた。家に入るとすぐに、床の間にずらりと並ぶ壺や花瓶が目に飛び込んできた。柿右衛門、今右衛門。二大ブランドがにらみ合うように肩を並べている。どこかデパートの外商が営業の華を咲かせていた頃の匂いがする。「あの頃のデパート外商は、福岡の金持ちのリビングに文化を配達していたんだなあ」と、私はひとり胸の内でつぶやいた。実際、依頼主いわく、先代がデパートの外商から買い集めたものだそうで、どうりで箱書きから緋色の紐に至るまできちんと揃っている。百貨店の外商部というのは、現代でいえば骨董界のアマゾンである。迅速、丁寧、そして何より高額?であった。

まずは今右衛門の査定から始める。目の前に出てきたのは十三代、十四代の作品。これがまた新品同様で、まるで「私はまだ働いていません」と履歴書に書き込む大学生のように、使用感ゼロである。皿も花瓶もピカピカ、桐箱の中で八十年近くの時をただひたすら眠ってきたに違いない。中には鍋島の錦絵花瓶、色絵の皿、さらにはグレーの墨ちらし花瓶まで顔をそろえている。墨ちらしというのは、白地の磁肌に淡い灰色が点描のように舞い散る技法で、まるで陶工が「くしゃみ」をしてしまったかのような偶然の美しさが宿っている。これがまた実に渋い。コーヒーのシミなら奥様に叱られるが、墨ちらしはお金に目ざとい奥様を喜ばせる。世の中、不思議なものだ。

続いて柿右衛門。こちらも十四代の作品が桐箱に収まったまま、ほとんど手付かずの状態で眠っていた。色絵や錦絵の花瓶や皿、濁し手の鉢まで顔を出す。濁し手というのは、乳白色の柔らかい地肌に色絵を施す技法で、光を包み込むような柔和さがある。見る者をして「まあ、少し落ち着きなさい」と諭すような風格を漂わせる。こういう磁器は、食卓よりもむしろ人間の心の座布団として働くのだろう。価格も高価だが…。

当時の美人顔です・明治期/柿右衛門・福岡・買取
当時の美人顔です

しかし今回の目玉は、何といっても時代ある柿右衛門人形であった。桐箱の行列の隅で、しれっとこちらを見ていた人形数点。よくよく見ると、これは明治期のものだと思われる。柿右衛門本人の窯元というよりも、柿右衛門様式を受け継いだ有田焼の職人が手掛けたものであろう。人形というのは不思議な存在である。皿や花瓶は「物」だが、人形は「誰か」である。ひとたび目が合うと、こちらの心をじっと覗き込んでくる。依頼主に「これはどうなんですか」と聞かれた私は、「少々ペイントが剥げていますが、これは年季の勲章。人間でいえばシワや白髪のようなものです」と説明した。事実、ところどころ色が落ちてはいたが、それがまた古色蒼然たる味を加えていた。新品のピカピカは確かに美しい。しかし、年月を経て人の手に触れ、埃をかぶり、光を浴び、色を褪せたものにこそ、美しい。本当の存在感が宿る美術品だ。私はそんな人形を前にして、しばし時を忘れてしまった。

骨董査定の仕事というのは、値段をつける行為である。だが実際には、品物に宿った時間や人の思い出を計る行為でもある。今右衛門や柿右衛門の器は、確かに市場価値で語れる。しかし明治期の人形に宿る「顔つき」「雰囲気」「気配」などは、値札を貼るだけでは到底表現しきれない。私は依頼主に「これは市場ではこういう評価ですが、ご家族にとってはもっと重い意味があると思います」と伝えた。査定の現場では、しばしば財布と心の二つの物差しを同時に使わねばならないのである。

ひと通りの査定を終えた帰り道、私はふと考えた。春日市という街は、実にこの家の骨董品に似ているのではないか、と。博多や天神のようにギラギラしていない。だが静かに八十年の時間をため込み、気づけばしっかりと人を魅了する力を持っている街だ。柿右衛門の人形がペイントロスを抱えながらも魅力的だったように、春日市もまた、過剰な装飾を剥ぎ落としたからこそ見えてくる味わいを秘めている。私はそんなことを考えながら、秋の虫の声をBGMに帰路についたのであった。

結局、骨董査定というものは、依頼主の家の歴史を一冊のアルバムのようにめくっていく作業なのかもしれない。壺も皿も花瓶も人形も、先代の趣味や時代の空気やデパートの外商の営業スマイルまで封じ込めている。私はそのページを一枚一枚読み解き、必要とあらば値段というしおりを挟む。それが私の役割であり、楽しみでもある。さて、次の依頼先ではどんなアルバムが開かれるのだろうか。

◇この柿右衛門人形については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。

買取品の詳細

 

◇この「柿右衛門人形」は古い時代の有田焼の物です。しかしながらはっきりとした窯は不明でした。時代は明治期の物と思われ擦り傷や汚れ、色落ちは御座いますが割れや欠け、ヒビはありませんでした。

 

買取査定額

色絵と金彩もきれいな人形/骨董・福岡
色絵と金彩もきれいな人形
刻印ありません/骨董・福岡
刻印ありません

◇柿右衛門人形の買取査定額もしくは評価額ですが窯印や刻印、次に色絵の細かさや色合い。そして状態や大きさ、さらには古い時代の共箱があればより高価買取&できます。

ご自宅に柿右衛門人形が御座いましたら一度拝見させてください。もちろん状態や時代、色合いでもお値段は変わりますのでご了承ください。

 

■過去の作品買取例


元禄 古伊万里色絵唐子人形  300,000円
伊万里 柿右衛門人形 色絵元禄美人 200,000円
錦色絵助六人形     50,000円
色絵 碁盤童子 30,000円 他多数

柿右衛門人形とは?

 

1. 柿右衛門様式とは

柿右衛門人形を語るには、まず「柿右衛門様式」と呼ばれる磁器の成立を理解する必要があります。江戸時代初期の17世紀半ば、有田で活躍した酒井田家の初代柿右衛門が、中国景徳鎮の技術を参考にしつつ、日本独自の色絵磁器を完成させました。特に「濁手(にごしで)」と称される乳白色の素地に、赤絵を中心とする鮮明な色絵を施す技法は、ヨーロッパの王侯貴族からも高く評価され、マイセンなど西洋磁器の誕生にも大きな影響を与えました。

この柿右衛門様式は、花鳥や草木、吉祥文様を繊細かつ余白を活かして描くことに特徴があり、当初は壺や皿、鉢などの器物が主流でした。しかし17世紀末から18世紀にかけて、輸出需要や国内の趣味人の好みに応じて「人形(にんぎょう)」と呼ばれる立体造形の磁器も盛んに作られるようになります。これが「柿右衛門人形」と総称される分野の始まりです。

2. 柿右衛門人形の時代背景

磁器人形の起源は、中国明清時代の磁製の人物像や動物像に求められます。有田では中国からの影響を受けつつ、日本の風俗や好尚を反映させた人物像や動植物像を独自に展開しました。江戸時代の中期には、唐子や獅子、七福神、能楽や歌舞伎の登場人物、あるいは町人風俗を題材とした磁器人形が登場し、輸出用だけでなく、国内でも床の間や飾棚を飾る愛玩品、信仰の対象として珍重されました。

また、江戸時代の元禄期には町人文化が爛熟し、人々が趣味や遊びに豊かさを求めるようになったことも背景にあります。柿右衛門人形は、その明るく艶やかな彩色や、愛嬌のある表情によって、富裕な町人層からも人気を集めました。

3. 代表的な作品

柿右衛門人形は題材によっていくつかのジャンルに分けられます。代表的なものを挙げると次の通りです。

  1. 唐子人形(からこにんぎょう)
    中国風の子ども像で、無邪気な表情や動作が特徴。複数体で遊戯する情景を表現したものもあり、吉祥や子孫繁栄を象徴しました。海外輸出品としても人気があり、ヨーロッパの宮廷を飾った例も残っています。

  2. 七福神や布袋像
    福徳を象徴する布袋和尚、あるいは七福神の一尊をかたどった像は、縁起物として国内で広く流通しました。布袋像は大きな腹と笑顔が特徴で、磁器ならではの艶やかさが加わることで、より明るく親しみやすい表現となっています。

  3. 能楽・歌舞伎の登場人物像
    江戸時代の芸能文化と結びついた人形で、役者の姿や能面を思わせる表情を磁器で再現しています。華やかな衣装の模様も柿右衛門様式の色絵で装飾され、舞台芸術の一場面を切り取ったような趣を持っています。

  4. 動物像(犬・獅子・鶴・鶏など)
    犬や鶴、鶏など吉祥性を持つ動物は人気の題材でした。特に鶏はヨーロッパでも好まれ、マイセンやデルフトの動物像にも影響を与えています。獅子像は魔除けの意味も込められ、日本的な信仰要素を含んでいます。

  5. 町人や遊女風俗像
    江戸の町人文化を反映した人形も多く作られました。遊女、子供、商人などの日常を題材にした磁器人形は、当時の生活を伝える貴重な資料ともなっています。

4. 柿右衛門人形の特徴

柿右衛門人形の造形や彩色には、次のような特徴があります。

  • 濁手素地の使用
    純白で柔らかな乳白色の素地が人形にも応用され、彩色部分を一層引き立てます。人物や動物の肌の部分を白磁で残すことで、清らかで温かみのある印象を与えます。

  • 赤絵を中心とした色彩
    赤・緑・黄・青・紫などの上絵具を使いますが、特に赤絵が主役となります。人形の場合も、衣服や装飾品に鮮やかな赤や緑を施すことで、華やかな印象を与えます。

  • 写実性とデフォルメの調和
    人物や動物の姿は写実的でありながら、どこかユーモラスで温かみのある表情が特徴です。特に子供の唐子像や布袋像には愛嬌があり、観る者を和ませます。

  • 余白の美の応用
    柿右衛門様式の平面作品では余白を活かした構図が特徴ですが、人形においても過剰な彩色を避け、白磁の部分を効果的に残しています。これにより立体的でありながら軽やかさが生まれます。

5. 海外での評価と影響

柿右衛門人形は、ヨーロッパ輸出品としても高い評価を受けました。17世紀後半から18世紀にかけてオランダ東インド会社を通じて欧州に輸出され、マイセン窯やチェルシー窯ウィーン窯などが柿右衛門人形を模倣・参照しました。特に「鶏」「唐子」「犬」などの像は、ヨーロッパ磁器人形の源流とされるほど大きな影響を与えています。

また、日本国内でも床飾りや雛道具の一部として重宝され、近世から近代にかけて数多くの名品が制作されました。現在でも柿右衛門窯は人形作品を制作しており、伝統の継承とともに新たな意匠も加えられています。

6. 代表的な所蔵先

今日、柿右衛門人形の優品は国内外の美術館に所蔵されています。例えば、佐賀県立九州陶磁文化館や東京国立博物館、出光美術館などには唐子像や動物像の名品が収められています。海外では大英博物館、ウィーン応用美術館、ドレスデン国立美術館などでも観ることができます。

7. 現代における柿右衛門人形

現代の柿右衛門窯(酒井田柿右衛門窯)でも、伝統を受け継ぎつつ人形作品が制作されています。現代作品はより写実的で細やかな造形を見せるものもあれば、古典的な唐子や布袋像を復刻するものもあり、時代を超えて愛好家の注目を集めています。

また、現代の美術市場においても柿右衛門人形は高い評価を維持しており、特に江戸期の輸出用人形は希少性から高額で取引されることが少なくありません。


参考サイト

絵付けは柿右衛門様式です/骨董品・福岡
絵付けは柿右衛門様式です

1. 柿右衛門古陶磁参考館(佐賀県・有田町)

  • 内容:柿右衛門窯に併設された美術館で、十二代から十四代、そして近代の代表作品を常設展示しています。壷や花瓶などに加え、「柿右衛門様式」の造形美を体験できます

2. 大英博物館(British Museum)(ロンドン)

  • 展示物:17世紀頃に作られた、柿右衛門様式(nigoshide=濁手)による「象」の磁器彫像が展示されています

3. メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art, New York)

  • 展示物:17世紀の柿右衛門様式による「水滴」――太鼓に腰かけ瓢箪を背負った少年像の形をした磁器作品があります

■その他の買取品目

 

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