福岡市博多区で銀の印籠を買取りました!

◇福岡の2月、小春日和が続いているとはいえ、まだまだ朝晩は冷える。こんな日は熱燗でもひっかけて、こたつに潜り込みたいところだが、そうもいかない。今回の出張買取は、博多区の古いお宅からのご依頼である。
博多区といえば、戦災で焼け野原になった場所も多いが、運よく焼け残った古いお寺や建物がぽつりぽつりと残っている。そんな名残を感じながら、ご依頼のお宅へと向かう。これがまた、なんとも趣のある建物で、戦前から続く古民家に洋館が併設されているという、和洋折衷の極み。外観からしてすでに期待値は上がる一方だ。
玄関をくぐると、アンティークなシャンデリアが迎えてくれる。天井からぶら下がるその姿は、まるで時代を超えた貴婦人のような優雅さだ。ステンドグラスから差し込む光が床にカラフルな影を落とし、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出している。これはただの古民家ではない。物語のあるビンテージな家だ。
奥の部屋へ案内されると、そこにはズラリと並ぶ掛軸や絵画、煎茶道具、象牙の置物、壺や花瓶などの陶磁器。どうやらこれらは戦前に中国や満州から持ち帰ったものらしい。なるほど、昔の商人や軍人たちは、異国の珍品を土産に持ち帰るのが常だった。時代を超えて、今こうして私の目の前に並んでいるのもまた、不思議な縁である。
さて、早速査定開始。箱を開け、一つずつ手に取る。まず目に飛び込んできたのは、清朝時代の唐物の壺。青磁の艶やかな肌に、龍が躍るように描かれている。これはなかなかの逸品だ。続いて、明治期の焼物。日本の職人魂が詰まった繊細な筆使いに思わず唸る。

さらに奥から出てきたのは、提げ物と呼ばれるキセル入れや印籠、根付の数々。これがまた渋い。特に根付は、江戸時代の粋な男たちが腰に下げて洒落込んでいたもの。小ぶりながらも細工が細かく、ひとつひとつに職人の魂がこもっている。根付の良し悪しを見るときは、細工の細かさだけではなく、遊び心の有無がポイントだ。この日は、江戸後期の洒落っ気たっぷりの根付がいくつも出てきた。猫が金魚を狙っているもの、狸が化けているもの、相撲取りが転んでいるもの……どれもこれも「持ち主がどんな人だったのか」と想像を掻き立てる。
査定しながら、すでに心は躍っていた。いや、正直に言うと、仕事を忘れて完全に楽しんでしまった。これだから骨董屋はやめられない。とはいえ、楽しんでばかりもいられない。商売である以上、きちんと値をつけなければならない。特に今回は個人的に大好きなものばかり。思わず査定額も弾んでしまい、「うっかり赤字になりはしないか」と一瞬冷や汗をかいたほどだ。
しかし、こちらの熱意が伝わったのか、家主様も満足そうに頷いている。そして最終的に「お願いします」とのひと言。こうして、無事に買取成立となった。帰り道、荷物でパンパンになった車の中で、ふと考えた。「これらの品々は、次にどんな人の手に渡るのだろうか」と。どこかの骨董好きが、これを手に取って「おお!」と感動する姿を想像すると、なんとも嬉しくなる。いやいや、しかしながら当分は手元に置いとくつもりだ…
時代を超え、国を超え、持ち主を変えながら受け継がれていく骨董品。それに関われるこの仕事は、やはり最高だ。さて、次はどんな出会いが待っているのか。楽しみにしつつ、福岡の街を後にするのであった。
この 印籠については下記で詳しくお話しておりますので最後までお付き合いください。宜しくお願い致します。
買取品の詳細
◇この「銀製の印籠」は江戸後期でとてもよくできており彫刻もユニークで物語が判りにくいものの人間味を感じた逸品でした。作家は「皆山應起」とありましたがこれは「円山応挙」をもじったものか…とも思われました。少し調べると作品の数は少ないのですが、作風としては比較的に細工が細かく、すみずみまで鏨が行き届き、華麗にできたものが多いようです。
買取査定額

◆印籠の買取査定額もしくは評価額ですがまず第一に蒔絵の豪華さや細やかな彫刻の良さ、次に状態、作家の知名度などや付属品の有無などでより高価買取&できます。なお、今回買取した印籠は銀製で腕の良い金工師の物なので高価買取させていただきました。ありがとうございました。尚、ご自宅や倉庫に印籠や武具などがありましたら是非、骨董品買取の福岡玄燈舎にお声掛け下さい。宜しくお願い致します。
■過去の作品買取例
蒔絵師 古満休伯作 金地螺鈿 高蒔絵印籠 箱付 700,000円
蒔絵師 松田枩交斎 作 内金梨地 500,000円
貞楽作 本金地螺鈿象嵌 箱付き 350,000円
芝山象嵌金銀高蒔絵花蝶図 印籠 200,000円 他多数
印籠とは?

◆印籠の歴史
印籠(いんろう)は、江戸時代の武士や町人たちが腰に提げて携帯していた小型の容器です。もともとは薬や印章(印鑑)を収納するためのものでしたが、時代とともに装飾品としての価値を持つようになりました。
印籠の起源は室町時代にさかのぼると考えられますが、本格的に普及したのは江戸時代に入ってからです。江戸時代の武士や裕福な商人たちは、煙草入れや巾着とともに印籠を腰に下げ、実用性とともにステータスシンボルとして使用しました。当時の衣服である着物にはポケットがなかったため、小物を入れるための道具として印籠は広く普及しました。
印籠の用途
印籠の主な用途は、以下の通りです。
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薬入れ 印籠はもともと携帯用の薬入れとして使われました。特に、家伝薬や漢方薬を持ち歩くための容器として重宝されました。
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印章(印鑑)入れ 武士や商人が自身の印章を携帯するための容器としても用いられました。重要な文書に押印する際にすぐに取り出せる便利な道具でした。
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装飾品・ステータスシンボル 印籠は、豪華な蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)、金銀細工などを施した美術工芸品として発展し、持ち主の財力や趣味を示すアイテムとなりました。
印籠の構造
印籠は、通常、3~5段の小箱を重ね、紐を通して固定する構造を持っています。これにより、携帯時に中身がこぼれない工夫がされています。印籠を帯に固定するためには「根付(ねつけ)」と「緒締(おじめ)」が使用されました。
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- 根付(ねつけ):紐の先につけられた装飾品で、帯に引っかかるようになっています。象牙、木彫、金属細工など多様な素材で作られました。
- 緒締(おじめ):紐の長さを調整するためのビーズ状の留め具。
有名な印籠作家・工房
江戸時代には、蒔絵や漆芸の技術が発展し、多くの名工が印籠制作に携わりました。以下は特に著名な作家や工房です。
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古満寛哉(こま かんさい) 江戸時代後期の蒔絵師で、精緻な蒔絵技法で知られています。細かい絵柄や金銀粉を駆使した作品が特徴です。
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柴田是真(しばた ぜしん) 幕末から明治時代にかけて活躍した漆芸家で、漆を用いた写実的な表現を得意としました。彼の作品は日本国内のみならず海外でも高く評価されています。
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勝川春章(かつかわ しゅんしょう) 江戸時代中期の浮世絵師であり、蒔絵師としても知られています。彼の描く美人画をモチーフにした印籠も制作されました。
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尾張藩・加賀藩の工房 武家文化が発展した尾張藩や加賀藩では、藩主の庇護のもとで高品質な印籠が作られました。これらの工房では、金蒔絵や螺鈿を駆使した豪華な作品が生産されました。
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小川破笠(おがわ はりつ) 独特なデザインとユーモアのある作風で知られる江戸時代の蒔絵師。彼の作品は、動物や人物をモチーフにした独創的なものが多いです。
印籠の現代的価値
現在では、印籠は実用品というよりも、美術品やコレクターズアイテムとしての価値が高まっています。特に江戸時代の名工が手がけた作品や、保存状態の良いものは、骨董市場で高額で取引されることが多いです。
★金工師 皆山應起とは…
皆山応起(みなやま おうき)は、江戸時代後期に活躍した日本の金工師であり、その卓越した技術と芸術性で知られています。彼は武具の金工師として著名ですが今回の買取品は印籠でしたのでとても興味深いですね。
生い立ちと経歴
皆山応起は、直市(なおいち)という名で知られ、初めは光久(みつひさ)や応興(おうこう)と名乗っていました。彼は大月光興(おおつき みつおき)の門人であり、同門には篤興(とくこう)、秀興(ひでおき)、天光堂秀国(てんこうどう ひでくに)、月山(がっさん)などがいます。これらの同門とともに、皆山応起は大月派を代表する金工師として高い評価を受けています。彼は京都の二条小川西入ルや二条油小路に住んでいたと伝えられています。
皆山応起の作品は、龍虎、人物、鳥獣などを高彫りで表現する技術が卓越しており、細部に至るまで精緻な彫刻が施されています。特に、赤銅(しゃくどう)や四分一(しぶいち)などの色金を用いた作品が多く、磨地や魚子地(ななこじ)といった地金の仕上げも丁寧に行われています。また、片切平象嵌(かたきりひらぞうがん)や鋤出高彫(すきだしたかぼり)色絵など、多彩な技法を駆使して作品を制作しました。
以下に、皆山応起の代表的な作品をいくつか紹介します。
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「木花之開耶姫図(このはなのさくやひめず)縁頭」 この作品は、日本神話に登場する女神・木花之開耶姫と富士山を題材とした縁頭(ふちがしら)です。木花之開耶姫は赤銅の象嵌に金色絵が施され、表情豊かに表現されています。富士山は鋤出高彫で描かれ、皆山応起の高い技術が存分に発揮された名品とされています。
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「能舞図(のうまいず)小柄」 この小柄(こづか)は、能の舞を題材とした作品で、皆山応起の署名(花押)が刻まれています。大月派の技術を継承し、細部まで行き届いた彫刻が特徴です。
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「一葉葵文透かし(ひとはあおいもんすかし)鐔」 赤銅地に一葉葵の文様を透かし彫りした鐔(つば)で、丸形のデザインが特徴的です。この作品は、赤銅の美しい色合いと精巧な彫刻技術が融合した逸品とされています。
皆山応起は、その卓越した技術と芸術性により、同時代の金工師の中でも高く評価されています。今回のような提げ物や印籠は珍しくどちらかといへば鍔や縁頭などの武具系が多いようです。彼の作品は、細部に至るまで精緻な彫刻が施されており、特に高彫りの技術に優れていました。また、赤銅や四分一などの色金を巧みに使用し、美しい色合いと質感を持つ作品を多く残しています。彼の作品は、現在でも美術館や個人コレクションで高く評価されており、日本の伝統工芸の重要な遺産として位置づけられています。
以上のように、皆山応起は江戸時代後期を代表する金工師として、その卓越した技術と芸術性で多くの名品を生み出しました。彼の作品は、現在でも高く評価され、日本の伝統工芸の重要な一翼を担っています。
◎印籠の展示が見られる関連、参考サイト
■その他の買取品目
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